近年、野球に統計学を活用して分析を行い、選手の評価や戦略に活かす「セイバーメトリクス」が注目されています。
野球に用いられているセイバーメトリクスの中でも、特に重要視されている指標の一つが「OPS」です。
この記事では、野球の攻撃において、打者を評価する指標の一つである「OPS」について詳しく解説します。
- 野球のOPSの意味や評価基準
- 野球のOPSの計算方法
- プロ野球の歴代OPSランキング
野球のOPSとはどんな意味?
野球のOPSは「On-base Plus Slugging」の略で、野球の攻撃における打撃能力を示す指標の一つです。
OPSの値が高いほど打者としての能力が高く、チームの得点に貢献していると言えます。
「OPS」は、「オーピーエス」または「オプス」と読むよ!
OPSは、「出塁(On-base)」と「長打(Slugging)」の両方を考慮することで、打者の総合的な打撃能力を示すことができます。
野球のOPSの計算方法
野球の「OPS」は以下の計算式で算出されます。
OPSは、「出塁(On-base)」と「長打(Slugging)」を足し合わせたものです。
そのため、OPSを計算するためには、出塁率と長打率をそれぞれ計算する必要があります。
出塁率とは?
出塁率とはその名の通り、「出塁した確率」を計算したものです。
出塁率が高い選手は、出塁する能力が高く、アウトになる確率が低いため、チームにとって貢献度が高いとされています。
「出塁率」は以下の計算式で算出します。
出塁率についてさらに詳しく知りたい方は、下記の記事をご覧ください。
長打率とは?
長打率とは、1打数あたりの塁打数の期待値を表し、打者の長打力を測ることができる指標です。
「長打を打つ確率」ではありませんのでご注意ください。
「長打率」は以下の計算式で算出します。
塁打とは?
「単打=1、二塁打=2、三塁打=3、本塁打=4」として計算します。
打数とは?
打数は以下の計算式で算出します。
「打席数」と「打数」の違いについては、下記の記事で詳しく解説しています。
長打率の計算例
ここでは、1打数1安打(本塁打が1本)のケースを計算してみましょう。
長打率=4÷1=4.000
このように、長打率は確率ではないため、1を超える数値になる場合もあります。
野球のOPSの計算例
それでは実際にOPSを計算してみましょう。
ここでは例として、下記のケースについて計算していきます。
打者Aが100回打席に立ち、単打16本、二塁打6本、本塁打2本を打った。
また、四球を15個選んで出塁した。
まずは出塁率から計算します。
出塁率の計算式である
「出塁率」=(安打数+四球+死球)÷(打数+四球+死球+犠飛)
に当てはめて計算します。
(安打数+四球+死球)÷(打数+四球+死球+犠飛)
=(24+15+0)÷{(100-15)+15+0+0}
=39÷100
=0.39
続いて、長打率を計算します。
長打率の計算式である
「長打率」=塁打数÷打数
に当てはめて計算します。
塁打数÷打数
={(16×1)+(6×2)+(0×3)+(2×4)}÷(100-15)
=36÷85
=0.423529…
小数点以下第4位を四捨五入すると
≒0.424
最後に、出塁率と長打率を足し合わせて、OPSを計算します。
OPSの計算式である
「OPS」=出塁率+長打率
に当てはめて計算します。
「OPS」=0.39+0.424=0.814
一般的に、1の位の0は表記しないため、この選手のOPSは「.814」となります。
野球のOPSの評価基準
OPSの開発者であるビル・ジェームズ氏は、OPSを用いて、以下のように打者をAランクからGランクまでの7段階に分けて評価しています。
ランク | 評価 | OPSの範囲 |
---|---|---|
A | 素晴らしい | .9000以上 |
B | 非常に良い | .8334 – .8999 |
C | 良い | .7667 – .8333 |
D | 並 | .7000 – .7666 |
E | 平均以下 | .6334 – .6999 |
F | 悪い | .5667 – .6333 |
G | 非常に悪い | .5666以下 |
野球のOPSの注意点
野球において、打者の打撃能力を総合的に評価する指標として広く用いられる「OPS」ですが、いくつかの注意点も存在します。
OPSは長打力に重きが置かれている
OPSは、出塁率よりも長打力に重きが置かれている点には注意が必要です。
- 出塁率が高く、長打が少ない選手⇒OPSは低くなる
- 出塁率が低く、長打が多い選手⇒OPSが高くなる
これは、出塁率と長打率の最大値が異なるためです。
出塁率は確率を示しており、その最大値は「1.000」です。
これに対して、長打率は確率を示すものではありません。
全打数で本塁打の場合に、長打率は最大値の「4.000」を記録します。
これにより、OPSだけで打者の評価をする場合は、長打力がある打者に偏りがちになることがあります。
OPSは盗塁を考慮していない
出塁率と長打率を足し合わせて算出するOPSでは、野球の攻撃において非常に重要な要素である走塁や盗塁がまったく考慮されていません。
具体例を見ながら比べてみましょう。
〈選手A〉
5打数で二塁打を1本打った。
〈選手B〉
5打数で単打を1本打ち、盗塁で2塁へ進塁した。
上記の選手Aと選手Bは、どちらも「走者二塁」という状況を作りました。
攻撃におけるチームへの貢献度はどちらも同じように見えます。
それでは、それぞれのOPSを計算して比べてみましょう。
〈選手A〉
「出塁率」=1÷5=.200
「長打率」=2÷5=.400
「OPS」=「.600」
〈選手B〉
「出塁率」=1÷5=.200
「長打率」=1÷5=.200
「OPS」=「.400」
選手Aと選手Bは、どちらも「走者二塁」という状況を作ったにもかかわらず、OPSでは大きな差が生まれてしまいました。
このように、OPSの指標だけでは、選手の特徴を詳しく知ることはできません。
チームの得点への貢献度を測るためにOPSを参照する場合は、走塁や盗塁を評価した指標と併用する必要があります。
OPSに関するプロ野球のタイトルは存在しない
プロ野球では、打撃に関するタイトルとして「首位打者」や「最多本塁打」など、様々なタイトルがあります。
しかし、OPSが最も高かった打者に贈られるタイトルは存在しません。
プロ野球の歴代OPSランキング
ここからは、プロ野球の歴代OPSランキングを見ていきましょう。
通算記録、シーズン記録の順にご紹介しています。
OPSの通算記録
順位 | 選手名 | OPS |
---|---|---|
1 | 王貞治 | 1.080 |
2 | 松井秀喜 | .996 |
3 | アレックス・カブレラ | .990 |
4 | 落合博満 | .987 |
5 | タフィ・ローズ | .940 |
6 | 張本勲 | .9334 |
7 | 中西太 | .9325 |
8 | 小笠原道大 | .929 |
9 | ブーマー・ウェルズ | .927 |
10 | 松中信彦 | .925 |
※通算4000打数以上の選手を対象に計算しています。
OPSのシーズン記録
順位 | 選手名 | 所属球団 | OPS | 記録年 |
---|---|---|---|---|
1 | 王貞治 | 読売ジャイアンツ | 1.293 | 1974年 |
2 | ランディ・バース | 阪神タイガース | 1.258 | 1986年 |
3 | 王貞治 | 読売ジャイアンツ | 1.255 | 1973年 |
4 | 落合博満 | ロッテオリオンズ | 1.244 | 1985年 |
5 | ウラディミール・バレンティン | 東京ヤクルトスワローズ | 1.234 | 2013年 |
6 | 落合博満 | ロッテオリオンズ | 1.232 | 1986年 |
7 | アレックス・カブレラ | 西武ライオンズ | 1.223 | 2002年 |
8 | 王貞治 | 読売ジャイアンツ | 1.211 | 1967年 |
9 | 王貞治 | 読売ジャイアンツ | 1.210 | 1966年 |
10 | 王貞治 | 読売ジャイアンツ | 1.204 | 1976年 |
まとめ:野球のOPSとは?
この記事では、野球のOPSについて解説しました。
ここまでの内容をまとめます。
OPSは比較的簡単に計算できるうえ、得点との相関関係が非常に強いことから注目を集めている指標です。
一方でOPSには、注意点があることも忘れてはいけません。
このサイトでは「みんなで野球を楽しみたい」をコンセプトに、野球の基礎知識やルールについて発信しています。
興味を持ってくださった方は、他の記事も読んでいただけると嬉しいです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。